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学位論文 Thesis

 

学位論文(2023)

生体内分解性マグネシウムの腐食分解機序の解明
-拡散環境が不溶性塩析出に及ぼす影響について-
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
林 昌伸

【背景】

 体液中の水と反応して容易に腐食するマグネシウム(以下Mg)合金は高強度・高延性ながら治癒後は生体内で分解消失するため、理想の骨固定素材となる可能性がある。生体内分解速度の最適化が製品化への課題であるが、Mgの生体内での腐食・分解挙動は完全には解明されておらず、分解反応に伴う組織中の空孔形成が損傷組織の治癒に影響を及ぼすことも報告されている。また、Mgは埋植組織によって腐食速度が異なることも報告されており、組織内の物質や分解産物などの物質の拡散の違いが腐食・分解挙動に影響すると考えられているが、このメカニズムについても明らかになっていない。

【目的】

 In vitro, In vivoでの純Mg試料の浸漬実験を行い、Mgの腐食時に生じる不溶性塩に着目し、多角的に解析し比較することで、腐食・分解に伴う不溶性塩形成機序の解明と拡散環境との関係を明らかにすることを目的とした。

【方法】

 生体内環境によってMgは異なる腐食・分解挙動を示す。この挙動解明のため、物質拡散速度が異なるin vitro環境でのMg腐食・分解について解析し比較を行った。In vitro実験として、φ1 × 6 mmの円柱状純Mg材(Mg純度99.9%)をゲランガム添加E-MEM培地+NBS溶液に浸漬した。ゲランガムは添加量を増加させることで濃度依存性に粘弾性が上昇する。この性質を利用し、ゲランガム濃度0.2%、0.3%、0.5%添加した3群の異なる拡散環境の溶液を用意した。浸漬後、1、3、7日で、マイクロX線CT撮影して空孔形成の測定を行った。腐食・分解に伴い形成された不溶性塩層の表面構造・断面構造について、走査電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析、ラマン分光法を用いて解析した。また、各群の不溶性塩をクロム酸洗浄により溶解し、溶解液の誘導結合プラズマ質量分析を行うことで、不溶性塩の構成元素の定量分析を行った。浸漬過程での試料周囲に形成される空孔分布をμCT画像から3DCTイメージングを行い、空孔分布と不溶性塩分布の関係について解析した。In vivo実験では、ラットの背部皮下に純Mg試料を埋植し、不溶性塩について同様の解析を行い、in vitro群との比較を行った。

【結果】

 3DCTによる空孔分布イメージングでは、0.2%添加溶液では試料周囲から空孔は全て遊離していたが、0.5%添加溶液では試料近傍の空孔停留を認めた。表面に形成された不溶性塩の形態は、板状形態、顆粒状形態、クレーター状形態の3種類に分類され、クレーター状塩の分布は試料表面の空孔停留部に一致して観察され、空孔拡散部に板状塩、顆粒状塩が分布していた。分析から、クレーター状塩は浸漬初期から後期までは、水酸化Mg、炭酸Mgが認められた。板状塩ないし顆粒状塩では、浸漬初期では炭酸Mgが形成され、さらに浸漬後期ではカルシウム(以下Ca)を中心としたリン酸塩、炭酸塩が見られた。In vivo実験ではクレーター状塩の形成は認めず、板状塩、顆粒状塩のみが認められ、in vitro実験0.2%群の結果と類似していた。不溶性塩分析では、層構造はin vitro群と概ね同様の傾向であったが、不溶性塩中のCa、P元素量がin vitro群と比べ有意に高かった。

【総括】

 In vitroin vivo環境でのMg浸漬実験を行い、拡散環境と不溶性塩形成の関係について考察を行った。拡散環境の違いは不溶性塩形成に違いをもたらし、特にCa塩析出に違いをもたらすことが示唆された。析出したCa塩は耐食性被膜として働き腐食・分解を阻害するため、結果として拡散環境の違いがMgの腐食・分解挙動に影響を与えると考えられる。Mgインプラント製品化においては、埋植組織の拡散環境を考慮した生体分解速度の最適化が重要である。

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