業績・研究

学位論文 Thesis

 

学位論文(2022)

電気刺激による筋肉収縮を利用した体内発電システム
東北大学大学院 医工学研究科 人工臓器医工学講座
佐原 玄太

 本研究では植込型医療機器へ給電するため、電気刺激による筋肉収縮を用いた体内発電システムの実現を目指し開発研究を行った。これまでにコンセプトシステムを提案し、カエルの筋肉による理論の実証を行ってきたが、ヒト体内における筋肉発電とは様々な条件が異なり、実現にはまだ多くの課題があった。そこで本論文では、それらの課題を解決し、ヒトに近い大型哺乳動物での理論実証を目指した。
骨格筋および培養筋細胞を対象とした電気刺激システムを開発した。筋組織への影響が少なく、筋細胞の分化パターンも制御しうる小型電気刺激装置を具現化できた。収縮変位を有効に取り出すため、筋肉の中腹に力学的負荷を掛けられる接続方法を考案し、効果を検証した。これらを応用し、発電動力源となる部分的な筋肉収縮特性を評価するためのセットアップを開発した。動物実験によりヒトと同等な大型哺乳類の筋肉の電気刺激に対する収縮特性を取得することができた。これらの結果を踏まえ、ヤギ広背筋の一部に発電システムを設置し、発電実験によって刺激電力を大きく上回る十分な発電量を得た。本研究の成果は、新しい体内発電システムの臨床応用に向けた大きな前進となる。

生体内分解性素材としてのマグネシウム埋植時の空隙形成抑制におけるBrushite皮膜処理の有用性に関する研究
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
相澤 貴之

【背景】

 高強度ながら、生体内で分解消失し、さらに骨形成を促進する理想的な骨接合材の素材としてMgが注目されている。しかしMgや多くのMg合金は生体内環境で短期間のうちに腐食が始まり、腐食生成物や水素ガスを発生するとともにデバイス強度の低下による破折も報告されている。さらに腐食過程で発生した水素は速やかに分散するが、窒素、酸素、二酸化炭素を主とする空隙を周辺組織内に形成し、骨壊死を引き起こす場合や癒合を遅らせる場合もある。そこで生体内で骨癒合が得られるまでの十分な強度の維持と、急激な水素ガス発生を抑制するために様々な表面処理が検討されている。その中で私は生体適合性、耐食性および溶解性の観点から、骨の成分でもあるリン酸カルシウムからなるBrushite皮膜処理を施すことにより空隙形成の抑制と、骨癒合を得た後の速やかな腐食分解による消失を目指している。腐食分解時の空隙形成を抑制することは理想的な骨接合材への大きな課題の解決につながるものである。

【目的】

 未処理の純Mg試料とBrushite皮膜処理を施した純Mg試料をin vitro実験とin vivo実験の両面から定量的に分析し、Brushite皮膜処理の空隙形成抑制効果を検証する。

【方法】

 試料は99.9質量%以上の純Mg試料(以下、未処理群)と、それにBrushite皮膜処理を施したもの(以下、皮膜処理群)を用いた。in vitro実験では細胞培養培地をゲル化して疑似生体組織としたものに5%CO2下で両群の試料を浸漬しつつ、X線CTで観察した。in vivo実験ではラットの背部皮下へ同試料を埋植し、埋植直後から高頻度にCTで観察した。それぞれの実験において埋植前後の試料重量、埋植中の空隙体積、試料表面元素のエネルギー分散型X線分析(以下、EDX)を行い、さらに埋植実験では試料表面の腐食生成物を含む不溶性塩の誘導結合プラズマ質量分析(以下、ICP-MS)による定量分析と埋植試料周囲組織の病理組織学的解析を行った。

【結果】

 in vitro実験・in vivo実験ともに未処理群に比して皮膜処理群で各測定点における空隙体積は有意に小さかった。in vitro実験の空隙体積は時間経過とともに増大したが、in vivo実験の空隙体積は埋植直後のピークの後に減少した。試料表面のEDXによる分析では未処理群において、in vitro実験・in vivo実験ともに実験後には表面にCaとPが検出された。in vivo実験後の試料表面における不溶性塩のICP-MSによる定量分析では、未処理群に比して皮膜処理群でMg・Ca・Pは有意に少なかった。病理組織像解析では両群の3日・7日とも軽度の炎症を示唆する肥満細胞の出現と血管新生を認めた、両群ともに7日は3日よりも肥満細胞数・血管数当たりの肥満細胞数の有意な減少を認めた。血管数の平均値は両群ともに3日と比して7日で増加したが有意差はなかった。

【結論】

 Brushite皮膜処理は生体内埋植後少なくとも1週間においてMg分解時の空隙形成を有意に抑制することがわかった。本研究はMg素材の急激な腐食分解に伴う空隙形成に関する課題を乗り越えるための重要なデータであり、理想的な骨接合材としてのMgの可能性を支持するものである。

加熱死菌Lactobacillus plantarum KB131の創傷治癒促進機構とCARD9シグナルの関与
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
伊師 森葉

【目的】

 皮膚創傷治癒過程は出血凝固期、炎症期、増殖期、再構築期から構成される。難治性創傷では炎症期が遷延し、増殖期への移行が進まず治癒が停滞すると考えられている。創傷治癒過程において、炎症型のM1マクロファージから抗炎症型のM2マクロファージへの分化が増殖期への移行に重要と言われている。我々はこれまで、C型レクチン受容体の下流のアダプター分子であるCARD9が創傷治癒において重要な働きをすることを明らかにしてきた。本研究では、生菌乳酸菌と比較して全身性感染症や過剰な炎症反応などのリスクが低い加熱死菌Lactobacillus plantarum KB131が創傷治癒過程に及ぼす影響およびCARD9の関与について解析を行った。

【方法】

 野生型 (WT) マウス (C57/BL6J) およびCARD9遺伝子欠損 (KO) マウスの背部皮膚に生検パンチにて6 mmの皮膚全層欠損創を4箇所作成した。創作成直後に創部にKB131を投与後、各タイムポイントで創を回収し、病理学的解析、コラーゲン合成の解析、サイトカイン、ケモカインおよび増殖因子の測定を行った。対照群には蒸留水を投与した。また、創部から白血球を採取し、両群間で好中球、マクロファージ、リンパ球の集積とマクロファージのサブタイプに関して比較検討した。創閉鎖率に関してはTLRs下流のアダプター分子であるMyD88-KOマウスでの解析も行った。また、CARD9上流のC型レクチン受容体であるDectin-1、Dectin-2、Mincleを発現するレポーター細胞をKB131で刺激し、各受容体の関与を検討した。

【結果】

 対照群と比較し、KB131投与により創閉鎖率が有意に増加し、創傷治癒は促進した。KB131投与により再上皮化率および肉芽組織面積の増加がみられた。KB131投与群ではCD31陽性血管数およびαSMA陽性筋線維芽細胞の面積が有意に増加した。創部コラーゲン合成は対照群と比較してKB131投与群で差はみられなかった。創作成後早期にはKB131投与によるTNF-α、IL-6の増加を認め、後期にはIL-4、IL-5、IL-10の増加を認めた。CXCL1、CXCL2、CCL3およびCCL4はKB131投与群で創作成後早期から産生増加を認め、CCL2は早期のみ、CCL5は初期から徐々に有意な増加を認めた。増殖因子であるEGF、VEGF、bFGF、TGF-β1産生もKB131投与により有意に増加した。創部の総白血球数はKB131投与で有意に増加し、初期での好中球の増加と増殖期でのマクロファージの増加、創作成後10日でのM2マクロファージ/M1マクロファージ比の有意な増加を認めた。WTマウスとMyD88-KOマウスの比較実験では、WTマウスでみられたKB131投与による創閉鎖の促進はMyD88-KOマウスでも同様に認められた。一方、WTマウスとCARD9-KOマウスの比較実験では、WTマウスでみられたKB131投与による創作成後7日での創閉鎖の増加が、CARD9-KOマウスでは認められなかった。再上皮化率、肉芽面積、CD31陽性血管数およびα-SMA陽性細胞面積も創閉鎖率と同様に、CARD9-KOマウスではKB131投与による増加を認めなかった。また、Dectin-1、Dectin-2、Mincleを発現したNFAT-GFPレポーター細胞へのKB131刺激では、いずれの細胞でもレポーター活性の誘導は認められなかった。

【総括】

 本研究により、加熱死菌乳酸菌KB131投与により創傷治癒過程が促進されること、創部におけるM2マクロファージへの分化が誘導されること、治癒促進にはMyD88よりもCARD9が重要な役割を担うことが明らかとなった。

学位論文(年度別)