業績・研究

学位論文 Thesis

 

学位論文(2010)

マウス皮膚創傷治癒過程におけるtumor necrosis factor- と invariant natural killer T 細胞の役割
東北大学大学院医学系研究科(博士課程)医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
立 雅恵

【研究背景】

褥瘡などの難治性潰瘍の病変部位では慢性炎症が認められ、それが治癒を遅延させると言われている。しかしながら、細菌感染によって宿主の炎症反応が減衰することにより創傷治癒過程が障害されるという報告もされている。そこで本研究では、炎症反応に焦点を当てた難治性潰瘍に対する新しい治療方法の可能性を考え、創傷治癒過程に関係する炎症性因子と創傷治癒の関係について研究を行った。正常な創傷治癒過程において炎症反応は重要な役割を持ち、その過程で様々なサイトカインが産生され、自然免疫細胞が活性化される。ラット分層創モデルを用いた先行研究では、皮膚潰瘍面への緑膿菌接種によって、非接種群に比べて多数の好中球集積と創作成 日目の上皮化促進を認めた。同時に、創組織をすり潰して採取した上清中のTNF-α 濃度は、緑膿菌接種群で非接種群より著明に高い結果となった。さらに、緑膿菌接種群において非接種群と比べ、創組織でのTNF-α の発現が、創傷治癒に関わるとされている他のサイトカインより著明に促進されていた。以上の背景から、創傷治癒の促進にTNF-α 産生が関係している可能性に注目した。また、本研究では、TNF-α と関連して働くとされ、近年、皮膚の自己免疫疾患や感染との関連が報告されているinvariant natural killer T (iNKT) 細胞にも注目した。

【研究方法】

マウス皮膚全層創モデルを作成し、マウスTNF-α に対する 中和抗体の投与と、マウスに対し生物活性を有するヒトTNF-α 投与の創傷治癒への影響について創面積測定、組織学的分析を行い検討した。また、iNKT 細胞を遺伝的に欠損させたマウス(Jα 18 KO マウス) と、強力なiNKT 細胞活性化物質である α-galactosylceramide ( α-GalCer) 投与の創傷治癒への影響について創面積測定、組織学的解析、組織中のTNF-α 濃度測定を行い検討した。

【研究結果】

自然経過での創組織中のTNF-α 濃度は、創作成 日目にかけて上昇し、その後、創作成直後のレベルに低下する傾向が認められた。抗TNF-α 抗体を投与した群では、コントロールとしてラットIgG を投与した群と比べて創作成3日目の創閉鎖が有意に遅延した。これは、組織学的に検討した、創作成3日目の皮筋間距離短縮の遅延と一致していた。逆に、ヒトTNF-α を投与した群では、コントロール群と比べて、創作成 日目と 日目で創閉鎖が有意に促進された。一方で、Jα 18 KO マウス群では、コントロールの野生型 (WT: wildtype) マウス群と比べて創作成3日目と7日目で創閉鎖が有意に遅延した。これとは逆に、野生型マウスに α-GalCerを投与した群では、コントロール群に比べて創作成3日目の創閉鎖が有意に促進された。この効果はJα 18KO マウスでは認められなかった。さらに、Jα 18KO マウス群と α-GalCer を投与した群での創組織中のTNF-α 濃度は、それぞれのコントロール群と比べて、創作成1日目、3日目、7日目のいずれでも有意な違いは認められなかった。

【結論】

炎症性因子であるTNF-α とiNKT 細胞が創傷治癒過程に深く関係し、TNF-α の投与や、iNKT 細胞の活性化によって創傷治癒が促進することが明らかになった。さらに、創傷治癒過程において、iNKT 細胞と創組織でのTNF-α 産生が関連していない可能性も予想された。これらは、創傷治癒の炎症期に注目し、皮膚創傷治癒早期の創収縮を検討した新しい知見であり、本研究により、iNKT 細胞が皮膚の創傷治癒過程で役割を担うことが初めて明らかになった。

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