業績・研究

学位論文 Thesis

 

学位論文(2016)

マウス皮膚創傷治癒過程におけるInterleukin-17Aの役割に関する研究
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
高木 尚之

【目的】

皮膚創傷治癒過程は炎症期、増殖期、成熟期の一連の過程を経て治癒にいたる。好中球は炎症期に創部に最初に集積する炎症性細胞であり、微生物の除去や他の免疫細胞の刺激といった働きにより感染防御、炎症制御に寄与する。一方で、好中球から分泌されるプロテアーゼは組織傷害を起こしうる。このため、好中球が創傷治癒に与える影響は二面性を持つ。Interleukin-17A(IL-17A)は好中球遊走を促す炎症性サイトカインであるが、創傷治癒への影響についてはこれまで相反する報告がなされており、十分に解明されていない。本研究では、IL-17Aの創傷治癒過程おける役割について解明することを目的とした。

【方法】

野生型(WT)マウスおよびIL-17A欠損(KO)マウスを用い、マウス背部皮膚に全層皮膚欠損創を作成した。両群間で創作成後各タイムポイントにて創閉鎖率を計測し、更に病理学的解析、コラーゲン合成の解析、ケモカイン発現の測定を行った。創部から白血球を採取し、両群間で好中球、マクロファージ、リンパ球の集積を比較検討した。また、WTマウス創部にリコンビナントIL-17A(rIL-17A)を投与し、創傷治癒への影響、コラーゲン合成への影響、創部白血球集積に与える影響を解析した。また、WTマウスにて創傷治癒過程におけるIL-17A産生細胞を、フローサイトメトリーを用いて解析した。

【結果】

WTマウスと比べ、IL-17A KOマウスは有意に創閉鎖率が増加し、創傷治癒は促進した。皮膚病理像では、創端距離の縮小および肉芽組織形成の促進がみられた。免疫染色にて筋線維芽細胞数は有意に亢進し、創部コラーゲン合成は促進した。また、創部の好中球集積は有意に低下し、KC(keratinocyte-derived chemokine)の発現の低下を認めた。一方、rIL-17Aを投与することにより創閉鎖率は有意に低下し、創部コラーゲン合成は低下し、創部の好中球集積は有意に亢進した。また、rIL-17A投与マウスに好中球エラスターゼ阻害剤を投与することで、遅延した創傷治癒は回復した。WTマウスにおいて、創傷後に好中球、マクロファージおよびγδ T細胞でのIL-17A産生を認めた。

【結論】

今回の結果から、IL-17Aは創傷治癒過程において、好中球集積を誘導することにより治癒を阻害することが示唆された。この好中球集積による治癒阻害には、好中球の分泌する好中球エラスターゼが関与する可能性が示唆された。本研究は創傷治癒過程における好中球遊走メカニズムの理解に重要な意義があり、また好中球が創傷治癒過程に与える影響についても重要な基盤情報が得られた。

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