業績・研究

学位論文 Thesis

 

学位論文(2011)

緑膿菌 (PAO1株) 接種による創傷治癒の促進:創部に集積した好中球によるTNF-α産生とその役割
東北大学大学院医学系研究科(博士課程)医科学専攻
菅野 恵美

【目的】

創傷治癒過程は表皮損傷直後よりおこる炎症反応に続き、組織修復がなされ治癒へと至る一連のプロセスである。これまでに創面への細菌負荷により治癒が促進することが報告されているが、詳細なメカニズムは解明されていない。細菌負荷により予想される宿主の反応として、好中球の遊走と炎症性サイトカイン産生が挙げられる。本研究では、これらの宿主反応を導くことが知られている緑膿菌を用い、ラット皮膚全層欠損創における緑膿菌の影響を明らかにするため、創部に集積する好中球の役割に注目し解析を行った。

【方法】

成熟雄SDラットの背側皮膚に皮膚生検用のパンチを用いて開放創を作成し、ただちに緑膿菌PAO1株を接種し、閉鎖環境においた (接種群)。緑膿菌を接種せずに閉鎖環境においた創 (非接種群) を対照とした。創作成1、6、12時間、1、3、5、7、10日後に組織を摘出し、再上皮化率、表皮細胞の分裂、血管新生、好中球集積、サイトカイン (TNF-α、bFGF、VEGF、MMP-13) の発現について解析した。シクロホスファミドやラット好中球に対する抗体RP3を前投与して、好中球減少状態を作り緑膿菌汚染創の治癒過程における好中球の役割について解析した。また、緑膿菌接種により早期に産生されるTNF-αの働きについて、ラットに生物活性を有するヒトTNF-αおよび抗TNF-α中和抗体を用いて解析した。

【結果】

1) 創部への緑膿菌接種により、創作成後24時間をピークとして創部に好中球が集積し、創作成3日目の上皮化、表皮細胞の分裂、血管新生の促進がみられた。2) 緑膿菌接種により、創作成24時間以内に創部ホモジネート中のTNF-αがmRNAおよび蛋白レベルで検出された。3) 非接種群と比べ接種群において、創部に遊走した好中球内TNF-αがより高いレベルで検出された。4) 好中球減少状態のラットでは、対照のラットと比べ、緑膿菌による治癒促進とTNF-α産生活性化の阻害がみられ、さらにこれらの現象はTNF-αを投与することにより回復した。5) TNF-α中和抗体投与により、緑膿菌による治癒促進と創部への好中球集積活性化の阻害がみられた。6) 表皮細胞の分裂や血管新生に関わるとされるbFGFとMMP-13の発現は、好中球減少、抗TNF-α抗体投与により発現が低下した。

【結論】

本研究は、緑膿菌接種により創部に大量に集積した好中球が、TNF-αを産生し治癒促進に積極的に関与することを明らかにした。緑膿菌により、TNF-α産生とそれによって誘導される好中球の集積が、無菌的に作成された創傷よりもより早く、より強く起こり、創作成3日目の治癒が促進したと考える。また、TNF-α産生はbFGFとMMP-13の発現を活性化することにより、表皮細胞の分裂や血管新生を促し、増殖期にも関与することが示された。今回の結果から、局所炎症反応の増強による治癒の促進が確認され、炎症反応をターゲットとした新しい創傷治療の可能性が拓かれた。

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