業績・研究

学位論文 Thesis

 

学位論文(2015)

ラット生体内におけるマグネシウム合金の分解挙動と組織反応に関する研究
東北大学大学院医学系研究科(博士課程)医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
三浦 千絵子

【背景】

形成外科領域の骨接合材には従来のチタンの他に、再手術による摘出が不要な生体内分解性ポリマーが用いられるようになった。しかし強度不足や無菌性炎症反応などの問題もあり、適応に関して未だ論争がある。そこで近年機械的強度と生体適合性に優れ、かつ生体内で分解する新しい素材としてマグネシウム合金が注目されている。しかし生体内におけるマグネシウム合金の分解挙動は、完全には明らかになっていない。本研究はラットの複数の組織において、今回新しく開発されたマグネシウム合金の分解挙動と周囲組織反応を分析し、分解挙動に影響する生体内因子を明らかにすることを目的とした。

【方法】

医療用に新規開発されたマグネシウム合金(Mg-1.0Al alloy)と、コントロールとして市販のチタンを用いてプレート(2 mm×3 mm×0.5 mm)を作成した。動物は雄性ラット 54匹を使用した。このうち36匹にはマグネシウム合金製のプレートを、残りの18匹にはチタン製のプレートを、頭部骨膜下、背部皮下組織、大腿筋肉内の3か所に1枚ずつ移植した。移植後1、2および4週後に、マグネシウム合金移植群のうち18匹に対してマイクロCT撮影を行い、残りの18匹とチタン移植群に対して病理組織学的分析を行った。撮影したマイクロCT画像を用いて、各移植部位における1)腐食形態、2)マグネシウム合金プレートの分解速度、3)発生したガスによる空孔の大きさ、および4)分解に伴い表面に析出する不溶性塩の量を分析した。病理組織学的観察により、5)マグネシウム合金およびチタンプレート周囲に形成された被膜の組織学的所見と、6)被膜の厚さを分析した。またすべてのラットの7)体重変化、8)血清および尿中マグネシウム濃度を分析した。

【結果】

マグネシウム合金は各移植部位で経時的に分解し、局部腐食を呈するものと全面腐食を呈するものとを認めたが、移植部位による差を認めなかった。分解速度は、頭部骨膜下で最も速く、次いで背部皮下組織、大腿筋肉内の順であった。マグネシウム合金の周囲には空孔が形成され、頭部骨膜下で空孔面積が大きかったが、いずれの部位でも移植後4週までに縮小した。不溶性塩の析出量には部位差はなかった。病理組織学的分析ではマグネシウム合金移植群とチタン移植群ともに、プレート周囲には被膜が形成された。被膜は初期には未熟な肉芽組織からなり、経時的に線維化を示した。線維化の進行過程には部位差を認めなかったが、マグネシウム合金群、チタン群ともに頭部骨膜下において、移植後早期の被膜が他の部位より有意に厚かった。経過中ラットに体重減少や異常行動を認めず、血清・尿中マグネシウム濃度はいずれの群でも同等あった。

【考察】

マグネシウム合金の分解挙動に影響する生体内因子には様々な報告がある。なかでも合金周囲の血流はイオンを拡散させ、マグネシウム合金の分解を促進する最も重要な因子と考えられている。文献的にはラットの筋肉組織は脂肪組織や骨組織と比較して組織血流量が豊富とされているが、本研究では大腿筋肉内における分解速度は最も遅かった。また合金表面への不溶性塩の析出は分解を抑制するとされているが、本研究で不溶性塩の析出量と分解速度の相関は認めなかった。被膜の線維化と血流に着目した病理組織学的分析では、被膜の線維化の程度には部位差を認めなかったが、マグネシウム合金が最も速く分解した頭部骨膜下では、他の部位に比して厚い肉芽組織性被膜が形成されていた。一般的に肉芽組織は血管新生が盛んなため、血流が豊富なのに対して、線維性組織は血流に乏しい。よって肉芽組織性の被膜は血流が豊富でマグネシウム合金の分解を促進した可能性がある。よって正常時の組織血流量のみならず、移植されたマグネシウム合金周囲に形成される被膜の微小循環も、分解挙動に影響することが示唆された。

【結論】

マグネシウム合金の生体内での分解挙動は移植部位により異なり、マグネシウム合金周囲の肉芽組織性被膜の厚さが分解速度に影響していた。生体内環境とマグネシウム合金の相互作用について、さらなる解明が必要である。マグネシウム合金の臨床応用においては、分解速度が移植部位により異なることを十分に配慮した設計が求められる。

マウス皮膚創傷治癒過程におけるNatural Killer T細胞の役割に関する研究
東北大学大学院医学系研究科(博士課程)医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
丹野 寛大

【目的】

皮膚創傷治癒過程は炎症期、増殖期、再構築期から構成される連続したプロセスである。炎症期には白血球が創面に遊走し、生体防御機能において重要な役割を担う。増殖期には血管新生、筋線維芽細胞の分化による創収縮、再構築期にはコラーゲン合成が起こり、創が閉鎖し治癒へと至る。創傷治癒過程における白血球の役割について、これまでに抗体や遺伝子欠損マウスを用いた詳細な検討がなされているが、invariant Natural Killer T (iNKT) 細胞については、ほとんど検証されてこなかった。iNKT細胞はT細胞とNK細胞の特性を併せもつ自然免疫リンパ球であり、皮膚疾患を含む様々な疾患の制御に深く関わり、活性化すると速やかに大量のIFN-γ、IL-4を産生することが報告されている。
本研究では、マウス創傷モデルを用いて創傷治癒過程におけるiNKT細胞の役割に注目し解析を行った。

【方法】

WTマウス (C57BL/6) とiNKT細胞欠損Jα18KOマウスの背側皮膚に全層欠損創を作成し、閉鎖環境においた。創閉鎖率、肉芽組織の厚さ、再上皮化率、創部コラーゲン量、創部破断強度および、免疫染色により、筋線維芽細胞の指標としてα-SMA、血管新生の指標としてCD31について解析を行った。皮膚ホモジネート上清を用いて、コラーゲン合成、血管新生に重要なサイトカインであるTGF-β1、VEGF濃度をELISA法により測定した。Jα18KOマウスにWTもしくはIFN-γKOマウス由来のiNKT細胞を約20%含む細胞集団である肝臓単核細胞 (LMNC) を細胞移入し、その治癒過程について検討した。また、創部からmRNAを抽出し、IFN-γ発現をReal-time PCRで解析した。細胞内IFN-γ産生の解析にはフローサイトメトリーを用いた。また、iNKT細胞の特異的活性化剤であるα- galactosylceramide (α-GalCer) 投与による創傷治癒への影響を検討した。

【結果】

iNKT細胞を欠損したJα18KOマウスでは、WTマウスと比較して、創閉鎖率、肉芽組織の厚さ、再上皮化率が有意に低下した。コラーゲン合成、α-SMA陽性細胞数、CD31陽性細胞数、創部破断強度も同様にJα18KOマウスで低下した。さらに、TGF-β1、VEGF産生もWTマウスに比べ、Jα18KOマウスで有意に低下した。Jα18KOマウスにおける創傷治癒過程の遅延は、WTマウス由来のLMNC移入により完全に回復したが、Jα18KO、IFN-γKOマウス由来のLMNC移入では回復しなかった。創部IFN-γ発現はJα18KOマウスにおいて創作成6、12、24時間で低下、創作成3日目では増加した。Jα18KOマウスでの創作成3日目におけるIFN-γ産生細胞は好中球であった。α-GalCer投与により、WTマウスでは、創閉鎖率、コラーゲン合成の促進を認めたが、この促進効果はIFN-γKOマウスでは誘導されなかった。

【結論】

本研究により、iNKT細胞が皮膚創傷治癒過程において促進的に関与することが明らかとなった。また、α-GalCerを投与し、iNKT細胞を活性化することにより創傷治癒が促進することが明らかとなった。この促進機構にはiNKT細胞から産生されるIFN-γが関与している可能性が示唆された。今回の結果より、iNKT細胞を活性化することにより、治癒の促進が確認され、新しい創傷治療の標的となる可能性が示された。

学位論文(年度別)