業績・研究

学位論文 Thesis

 

学位論文(2019)

新しい3元系マグネシウム合金の生体内挙動制御と表面処理効果に関する3次元的評価
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
村木 健二

 骨固定材料として、吸収性骨固定材料へのニーズが高まっている。そこで、吸収性骨固定材料に骨接合部の治癒を促進または補助する能動的な効果があれば、より理想的な骨固定材料に成りうる可能性があると考えられた。最近、マグネシウムには骨再生効果を期待できるとの報告がなされ、マグネシウム合金に注目が集まっている。そのため私は、マグネシウム合金の分解挙動を制御することを目的として研究を行った。
マグネシウム合金の表層に表面処理を施す事で、ガス発生や分解挙動は変化するのかを確認することを目的とした。表面処理は、水酸化マグネシウム(耐蝕層)を析出させる表面処理と、耐蝕層上にリン酸カルシウム系(化合物ブルシャイト)を析出させる表面処理を準備し、表面処理を施さなかった合金、コントロールとしてチタン合金も含めて比較評価を行った。評価方法として、CT撮影データを基に、そのデータから3次元構築し、チタン合金とマグネシウム合金(裸材、耐蝕層、耐蝕層+ブルシャイト)の3群を、発生したガスによる空胞体積の変化、合金の体積変化、新生骨の体積変化を経時的、表面処理別に計測し検討した。加えて、非脱灰研磨標本による組織学的観察ならびにEDX元素分析も行った。
3次元構築したデータを用いて、ガス体積、新生骨体積量、ネイル体積の経時的変化を検討した。その結果として、ガス体積は4週において、チタン合金群と耐蝕層で(p=0.0083)、耐蝕層群とブルシャイト群の間に有意差を認めた(p=0.0358)。新生骨体積量は、4週において、チタン合金群と耐蝕層群(p=0.0023)および 、耐蝕層群とブルシャイト群(p=0.0149) 、チタン合金群と裸材群(p=0.0373)間においてそれぞれ有意差を認めた。ネイル体積は、4週において耐蝕層群が裸材群(p=0.0403)、ブルシャイト群(p=0.0976)となり、裸材群とのみ有意差を認めた。
本研究において、表面処理を行う事で、生体内での反応を目的に応じて調整する事ができるのではないかという事が示唆された。このことより表面処理を行う事で、生体内骨固定材料として、安定した挙動を目指すために反応強度を調節したり、骨形成をもたらすために腐蝕反応を長時間持続させたりすることが意図的に行える可能性が示唆される。今回の結果は、今後のマグネシウム合金に対する表面処理の選択において、一つの指標とすることができるのではないかと考える。

皮膚創傷治癒過程におけるDectin-1、Dectin-2の役割の相違
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
山口 賢次

【目的】

 C型レクチン受容体であるDecitn-1と2はそれぞれ真菌の細胞壁を構成するα-mannan、 β-glucanを認識し、感染防御に寄与する。皮膚創傷治癒過程において、β-glucanが治癒を促進し、α-mannanが治癒を遅延させることが明らかとなったが、その他、両者の役割や相違に関してはいまだに不明な点が多い。本研究ではこの点を明らかにする目的で詳細な解析を行なった。

【方法】

 野生型(WT)マウスとDectin-1、2遺伝子欠損(KO)マウスの背部皮膚に全層欠損創を作成した。創部のDectin-1、2発現、発現細胞、病理組織、好中球推移、NETs発現の解析を行った。同様に、α-mannan (Mannan)、β-glucanを投与下での解析も行なった。加えて、コラーゲン量、TGF-β、MMP-8、エラスターゼの解析も行った。

【結果】

 創作成後6時間をピークにDectin-1が12時間をピークにDectin-2の発現が増加し、Dectin-1、2共に、好中球、マクロファージ、線維芽細胞の発現を認めた。Dectin-1KOではWTマウスに比べて創閉鎖が遅延し、Dectin-2KOマウスでは創閉鎖が促進すること、好中球集積はWTマウスと比較し、早期にDectin-1KOマウスが低下し、逆に後期にDectin-2KOマウスで低下した。また、dZymosan投与は創閉鎖を促進させ、組織内のCD31陽性細胞数、αSMA陽性細胞数、PCNA陽性細胞数はいずれも有意に上昇させた一方で、Mannan投与は創閉鎖を遅延させ、CD31陽性細胞数、αSMA陽性細胞数を低下させた。好中球数の推移は、dZymosan投与では早期に有意に好中球の上昇を認めた一方で、Mannan投与では、後期に好中球が有意に上昇した。創部NETosisはMannan投与において強く発現し、このNETosisがDectin-2KOマウスでは有意に低下を認めた。Dectin-2KOマウスでは、WTマウスと比較して有意にバイドロキシプロリン、TGF-βが上昇し、MMP-8、エラスターゼ活性レベルはDectin-2KOマウスではWTマウスに比べて有意に低かった。

【結論】

 皮膚創傷治癒において、Dectin-1シグナルでは、早期の好中球性炎症反応と組織形成に関与し、治癒が促進することが示された。一方、Dectin-2シグナルは長期の好中球性炎症反応とNETsの産生亢進に関与し、コラーゲン合成の調節と併せて、治癒の遅延に関与することが示された。Dectin-1、Dectin-2は、主に炎症期から増殖期への移行中に重要な調節因子として作用する可能性がある。加えて、Dectin-2は慢性創傷との関与も示唆され、Dectin-2やNETsを対象とした治療も有望であると考えられた。

学位論文(年度別)