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学位論文 Thesis

 

学位論文(2020)

テクスチャード乳房インプラントにおけるCARD9を介したマクロファージ応答と被膜形成に関する研究
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 外科病態学講座形成外科学分野
庄司 未樹

【背景】

 シリコン乳房インプラントは乳がん術後の乳房再建術や豊胸手術目的で広く普及している。シリコン乳房インプラントにおける長期的合併症として、異物への生体反応として形成される被膜が拘縮を起こすことで疼痛や変形を引き起こす被膜拘縮がこれまで問題となっていた。それに加え近年、インプラント関連未分型大細胞型リンパ腫(Breast Implant-Associated Anaplastic Large Cell Lymphoma; 以下BIA-ALCL)が問題となっている。乳房インプラントは表面に凹凸のあるテクスチャードタイプと表面平滑なスムースタイプに大きく分類され、被膜拘縮はスムースタイプに多く、BIA-ALCLはテクスチャードタイプに多いとされ、インプラントの表面形態がこれら合併症に関与する可能性が指摘されている。しかし、これらの発生するメカニズムは解明されておらず、インプラント挿入後の炎症反応に及ぼす表面形態の影響については明らかにされていない。

【目的】

 本研究の目的は表面形態の異なるシリコンに対する生体反応の違いを比較分析し、また、シリコン表面形態の認識に関与するシグナル伝達経路の可能性を解析することを目的とした。

【方法】

 野生型(WT)マウスを用いて、テクスチャードタイプとスムースタイプのシリコンシートを挿入し、各タイムポイントにおける被膜の厚さ、組織学的所見、集積細胞およびサイトカイン産生の測定を行い、シリコン表面形態による炎症反応の違いを解析した。また、CARD9、Dectin-1、Dectin-2およびMincle欠損(KO)マウスを用いることで、シリコン表面形態に対する生体反応に関与するパターン認識受容体(PRRs)の可能性を検討した。

【結果】

 テクスチャードタイプのシリコン挿入群において、有意に厚い被膜形成を認め、それに伴う線維芽細胞や筋繊維芽細胞の集積を認めた。また、マクロファージおよび異物巨細胞が著明に多く集積し、それら集積細胞によるTGF-β1産生を認めた。また、CARD9KOマウスはWTマウスに比べ被膜形成、マクロファージ集積およびTGF-β1産生の有意な低下を認めた。Dectin-1、Dectin-2およびMincle KOマウスでの被膜形成に至る明らかな関連性は認めなかった。

【結論】

 今回の研究により、テクスチャードタイプのシリコンにおいて、シリコン周囲にマクロファージが集積し、それらが産生したTGF-β1により被膜形成が促進される可能性が示された。また、CARD9KOマウスにおけるこれらの反応が抑制されたことから、これらのシリコン表面形態による反応には、CARD9を介したシグナル伝達が関与する可能性が示唆された。本研究はシリコン乳房インプラントにおける長期的合併症発生のメカニズムの理解に重要な意義があり、またシリコンの表面形態に対する生体反応とPRRsの関連性についても重要な基礎情報が得られた。

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