Muse細胞を利用した新規全身熱傷治療法の開発
医療が進歩した現在でも広範囲3度熱傷の治療においては多くの課題があります。その中でも広範囲熱傷においては採皮面積の不足という事態に直面します。自家培養表皮やRECELL®など表皮細胞を広範囲に拡大する手段はありますが、真皮が欠損している部分にこれらの移植が単独で行えないという問題があります。分層植皮が生着がしない原因についてはまだ究明されておりませんが、我々は表皮と真皮を繋ぎ留めている基底膜に原因があるのではないかと考えています。
この問題を解決するために、当大学の細胞組織学分野 出澤教授らが発見したES細胞、iPS細胞に続く、第3の多能性幹細胞といわれているMuse細胞(Multilineage-differentiating stress enduring細胞)を用い研究を行っております。Muse細胞とは生体内に元々存在する間葉系幹細胞の一種であり、多能性幹細胞マーカー(SSEA-3)が陽性で、自己複製能および三胚葉性の分化能を有する細胞です。Muse細胞が損傷部位に血流を介して遊走し、損傷した細胞へと分化・修復することで機能が回復することが報告されています。
本実験で基底膜構築できることが判明すれば、熱傷治療にとどまらず基底膜の異常により発生する表皮水疱症、巨大色素性母斑や重度褥瘡などの治療にも応用が可能であると考えています。
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人工知能(artificial intelligence: AI)技術を活用したカウンセリングツールの開発
~よりよい口唇・口蓋裂治療を目指して~
口唇・口蓋裂は先天的に口唇、口蓋、上顎に裂を認める、本邦では500-600人に1人の頻度で出生する比較的頻度の高い先天疾患であり、治療技術が向上した現在であっても少なからず変形や瘢痕は残存してしまいます。このような外見の問題は可視的差異(visible differences: VD)とよばれ、自尊感情の低下、社会不安、抑うつ、対人関係の回避などの心理社会的な問題を引き起こすものとして近年注目されています。
東北大学病院では2010年より「唇顎口蓋裂センター」を立ち上げ、公認心理士によるカウンセリングも含めて総合的に治療を行っています。しかし、外来での対応には限界があり、VDに悩む口唇・口蓋裂患者の心理社会的問題に十分に対応しきれていないと感じる場面もあります。
そこで当研究科では、ChatGPTなどに代表される人工知能(artificial intelligence: AI)技術によるChatbotを応用した、口唇・口蓋裂患者の悩みや不安の解消に特化したカウンセリングツールの開発を目指しています。東北大学は文部科学省のプロジェクトである、「医療AI人材拠点プログラム」の主幹大学であるため医療AIの専門家が在籍し、AIカウンセリングツール開発に適した環境にあります。いつ・どこでも利用できるツールにより口唇・口蓋裂患者のQOLが向上し、よりよい治療に繋がることが期待されます。
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血管腫・脈管奇形の遺伝子解析
血管腫・脈管奇形は多くは先天性であり、脈管の発生異常により生じる疾患です。静脈から発生するものを静脈奇形、リンパ管から発生するものをリンパ管奇形、毛細血管から生じるものを毛細血管奇形、そして動脈と静脈の間にできた異常な脈管を動静脈奇形、動静脈ろうと言います。多くの場合は局所的な単独病変である一方で、病変の大きさや局在、複数の脈管奇形の組み合わせによっては非常に難治となることがあり、外科的治療だけではなく、分子標的薬による薬物治療が近年注目されています。2021年10月に、代表的な混合性脈管奇形症候群であるKlippel Trenaunay Syndrome(KTS)に対し、原因遺伝子であるPIK3CA遺伝子の下流に位置するmTORを阻害することで難治性リンパ管奇形の病変縮小をもたらず分子標的薬:ラパリムス(シロリムス®:ノーベルファーマ社)が保険適応となり、 既に数多くの症例で症状の改善を認めたという報告があります。
我々は、KTSをはじめとする難治性血管腫・脈管奇形疾患の患者さんから、手術の際に検体を採取し、病変部の遺伝子解析を行っています。得られた組織からDNAを抽出の上、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子解析を行うことで、これまでに報告のあるPIK3CAの変異率と表現型の相関の解析を行なうのみならず、RAF、MEK、VEGFRをはじめとする、脈管異常の原因遺伝子でありかつ分子標的薬の対象となる複数の遺伝子変異の有無を解析することで、難治性脈管奇形疾患への薬物治療の可能性を広げることを期待しています。
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ブレストインプラントにおける表面形状に対する生体反応の解析
–何が慢性炎症につながるのか?–
シリコンブレストインプラント(SBI)は豊胸や乳房再建の主流である一方で、被膜拘縮やインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(Breast Implant-Associated Anaplastic Large Cell Lymphoma; BIA-ALCL)などの合併症が問題となっています。これらの合併症には過剰な免疫反応やバイオフィルムの関与が指摘されていますが、明確なメカニズムは解明されていないのが現状です。被膜拘縮はsmooth typeのSBIで多いのに対し、BIA-ALCLはtextured typeのSBIで多いとされることから、表面形状の違いも関与している可能性が考えられています。
我々はシリコンの表面形状の違いによる被膜周囲の集積細胞やサイトカイン産生量などの炎症反応の解析およびバイオフィルムの検出をin vitroからヒト検体に至るまで網羅的に行っています。これまでにtextured typeにおいて早期から長期まで持続する強い炎症反応や高いバイオフィルム陽性率を認めており、これらの結果はシリコンの表面形状が慢性炎症に関与している可能性を示唆するものと考えています。また、これらシリコンの表面形状を認識するパターン認識受容体を介した伝達経路の解明についても解析を進めており、将来的にはこれらを認識する受容体の作用を阻害するfusion proteinの開発を目指しています。
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骨折治癒を促進し、治ったら解けて消失する新しい骨接合材の開発
現在使用される骨接合材は、高強度のTi素材と、生体内分解性が特徴のポリマー素材が主流ですが、Ti素材は長期残存、ポリマー素材は強度不足や異物反応などが短所です。そこで高強度かつ生体分解性を示すMg合金を用いた新たな骨接合材の開発が注目されています。
我々のこれまでの研究では骨に埋植されたMg合金周囲に骨形成を生じることが分かっており、骨癒合を促進する能動的な吸収性骨固定材を目指して開発を行っています。現在の課題は、吸収時に発生する水素ガスによる空胞形成を抑制しながら、骨形成能と生体内吸収能を両立させる方法を見いだすことです。様々な方法を用いて生体内での吸収メカニズムを詳細に検証することで突破口を探っています。2024年度は東北大学の「NanoTerasu 戦略的活用推進支援制度」に選択され、Tano Terasuの放射光を用いたより詳細な観察を行う予定です。
我々の開発している理想的な骨接合デバイスは高齢者・骨粗鬆症患者を含む骨折治療期間の短縮による医療費軽減・QOL向上などの多大な社会貢献をもたらすと期待しています。
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乳酸菌が傷を治す 〜創傷治癒効果の免疫学的解析〜
乳酸菌は、人類にとって非常に馴染みの深い細菌の一種であり、ヨーグルトやキムチなどの発酵食品や乳酸菌飲料など、普段から摂取する機会が多く、非常に古くから人類と深く関わってきたと言えます。そんな馴染みの深い乳酸菌に、昨今、創傷治癒促進作用や細菌増殖抑制効果を持つ可能性が指摘されています。
我々は、高圧ホモジナイズ処理により死菌とし、かつ水分散性が高く免疫賦活能に優れた高分散性乳酸菌(バイオ研より分与)を用いて創傷治癒に関わる研究を行っております。看護技術開発学分野の菅野恵美教授、丹野寛大講師らと連携し、創傷治癒に関わる因子の免疫学的手法を用いた解析を進めています。乳酸菌投与による、炎症の誘導および免疫賦活、抗菌効果などについて解析を進めており、褥瘡や熱傷などの難治性の創傷への効果を検証しています。将来的には重度創傷のみならず日常で生じる擦過傷など様々な創傷に対して創傷治癒効果をもたらす乳酸菌製剤や創傷被覆材の開発を目指しております。
(Tanno H, et al. Biomedicines 2021, 9, 1520)
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